「葉月くん」
「ん・・?」
「し、質問があるんだけど」
「質問?」
「うん、聞いてもいい?」
「ああ・・・別にかまわない」
「答えるときには、絶対本当のことを教えてくれる?」
「え・・・?」
「本当のことじゃなくちゃダメ、嘘じゃダメなの」
そう言うとは俺の目の前に立ち俺を見上げた
パチパチと繰り返される瞬き・・・睫の奥の瞳は真剣そのものだった
「ん・・・解った、嘘は言わない」
「ホント?約束だよ?」
「ん・・・、約束する」
すると何を思ったか・・・は右手を胸の前に出し、小指を立てた
『指きり』
にしてみれば・・・何気ない仕草だったんだろう・・・
俺はそれを見た途端、子どもの頃の記憶が一気に蘇って胸が痛くなるのを感じていた
けれど・・・そんな様子は気取られてはいけない
何事もないように・・・差し出された指に小指を絡める
触れた肌から伝わる体温・・・指の先から身体中が熱くなってゆく様な気すらした
「指きりね!」
笑顔でそういうに、俺は無言で頷いた
見下ろした俺の視界の中には・・・もう、目の前のしか存在しなかった
「あのね、葉月くん」
「ん・・・」
「告白・・」
「え・・?」
告白?
こ・く・は・く
たった四文字の言葉が、俺を激しく動揺させた・・・
バレンタインデーに・・・目の前で、好きな女から、この単語を聞くことがどれだけの意味を持っているのか、はそれを解っているのだろうか
「あのね、葉月くんは女の子に告白されるとしたら、どんな風に告白されたい?」
「え・・・・?どんなふうにって・・・」
「だ、だから、どんな場所でとか、どんな言葉でとか・・・参考までに教えて」
真っ直ぐに俺を見る瞳
身長の差があるから・・・必然、上目遣いの面差し・・・
俺の気持ちなど・・・わかっても居ないは
あろうことか、告白の方法を聞いてきた
そんなことを俺に聞くって事はまさに『参考意見』が必要って意味なんだろう・・・・
残酷な事実を目の前に・・・俺の思考回路はネジが外れた
「そうだな・・・俺だったら・・・」
「うん、葉月くんだったら・・・?」
「芝の上で・・・」
「う、うん・・・」
俺は・・・芝生の真ん中まで行くと、そのまま寝転んでを見上げた
「こうして寝転がっているときに・・・襲われたい」
「お、襲われたい!?」
「ああ・・・、ありきたりの言葉はいらない・・・行動で示してくれた方がいい」
「行動でって・・・」
は、俺を見下ろしながら・・・ごくりと息をのんだ
「たとえば・・・寝転んだ俺に覆いかぶさって、こう言うんだ
『今日から私はあなたの彼女よ、文句ある?』って」
「葉月くん!?それ、ほ、本気なの?」
「ああ・・・嘘は言わないって約束だろ」
参考にもならないような・・・とんでもない告白方法を俺はに教えた
冷静に考えればありえないことくらい・・・にもわかるだろう
「それで、告白された葉月くんは・・・どうするの?」
「どうするって・・・それはその時になってみなければ、俺にも解らないけど・・・」
その言葉も言い終わらない、一瞬のうちに
天を仰いでいた俺の視界にがズームアップされて、俺は思わず上体を起こした
は・・・俺の隣に座り込んで すぅ っと大きく息を吸い込んで はぁ っと吐き出すと
「ホントに襲ってもいいの?」
「えっ?」
「だって、葉月くん・・・襲われたいって・・・」
真顔で俺にそう聞く・・・
俺は、冗談すら本気にしてしまう、の素直さを改めて知った
「・・・おまえ、本気にしたのか?」
「えっ!?嘘だったの?」
「ごめん、冗談・・・」
「だ、だ、だよね!私もちょっと可笑しいかなって思ったんだ」
の横顔が、見る見るうちに真っ赤に染まっていった
「葉月くん、嘘ついたから針千本だよっ、もぉ!」
「針千本か・・・飲むよ」
「そうだよ、飲んで、って、飲むの?」
「ん・・・約束だから」
俺はそう言うと・・・、また寝転がって空を眺めた
薄水色の空・・・雲が右から左へと流れていた・・・
上空では風が強いのかもしれない
針千本・・・飲んでこの気持ちを忘れられるなら、一万本でも飲めるのに・・・
は・・・、俺に告白の方法を聞いてきた
そして冗談を真に受けて、俺に「襲っていいか」と言った・・・
そこまで考えて・・・俺は突然 がばっ っと身体を起こした
襲っていいのかって、俺に聞いたって事は・・・
はあの時・・・告白をしようとしていたのか?
俺に?
「葉月くん?どうしたの?」
「え・・・、あ、いや・・」
「針千本が怖くなった?」
そう言うと・・・は俺を覗き込み、いたずらっぽく微笑んだ
まさか・・・俺?
嘘だろ、が俺を・・・?
「あのさ」
「え・・」
「葉月くんは、告白されるとしたら・・・なんて言われたいのかな?」
「・・・・」
「今度は、本当のこと教えてね、そうしたら針千本は許してあげる」
俺は・・・気持ちを静める事に必死になった
それでも、手に汗がにじむ・・・そして鼓動が急に早まることを感じていた
鈍感だと思っていたには、好きな男が居て・・・
もしかすると・・・それは俺だったのか?
鈍感なのは・・・この俺のほうなのか?
俺は、意を決し、こう言った
「告白される時・・・どんな言葉がいいかなんて、俺には言えない
俺が好きな女から言われるなら、どんな言葉でもきっと嬉しいと思うから・・・」
「葉月くん、好きな人・・・いるの?」
「ああ・・・、も、居るんだろ、好きな奴・・・」
「・・・うん」
は・・・こくんと頷いた
俺の目の前で、今まさにサイが振られた事を知る
「本当に好きなら、自分の言葉で、気持ちを伝えたらいい」
「自分の言葉で・・・気持ちを・・・」
「ん・・・」
は・・・自分に言い聞かせるように俺の言葉を繰り返し
横座りしていた足を動かし・・・芝の上で、正座をした
そして、俺のほうは向かずに・・・前を向いたまま ふぅ と溜め息をついた
「勇気が要るね・・・ドキドキする・・・」
俺も・・・ドキドキしてる
そう言いたくなるほど、俺も胸の高鳴りを感じていた・・
そして数秒後・・・は前を向いたまま、こう言った
「葉月くんが、好きです」
その言葉が聞こえ、俺は・・・の膝の上の小さな手の上に手の平を重ねた
「俺も・・・が好きだ」
そして俺は・・・そのまま ぐっ と手を握った
それ以上・・・言葉にすることは出来なかった
は、何度も何度も頷いて・・・「ありがとう」と言った・・・
三ヵ月後・・・・5月 森林公園の芝生広場
レジャーシートの上で寝転ぶ俺の隣には・・・弁当を片付けるがいた
「珪くん、お弁当美味しかった?」
「カイワレが、まずかった・・・」
「あははは!、カイワレくんね、うちで水耕栽培始めたの、来週も食べてね」
「マジで・・・?」
「なに?なんか文句あるの?」
「いや・・・全然」
「よしよし、いいこいいこ!」
は子どもの相手をするみたいに、俺の頭を撫でると、嬉しそうに笑った
俺は身体を起こし・・・頭の上の手をとると、の身体を引き寄せる・・・
「・・・」
「珪・・くん・・」
付き合い始めて三ヶ月・・・
手を握ること以上は・・・進まない俺達の「仲」
俺は、そのままゆっくりと顔を寄せてゆく
見開かれたの瞳の中に俺が居て・・・
俺の瞳にも・・・が映っているだろう
そして・・・の瞳が、ゆっくりと瞼に隠れた・・・
5月の薫風が・・・俺達の間をすり抜けてゆく
木々がざわめき・・・遠くで鳥の声がしていた
でも・・俺達の耳には・・・届かなかった
END
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